風の歌を聴け

風の歌を聴け [DVD]

風の歌を聴け [DVD]

へぇ、これって映画になってたのか。全く知らなかった。というわけで見た。もちろん村上春樹のデビュー作が原作になっている。
どんな感じであの原作を映画にするんだろう、なんかつまらなくなりそうな気がするなあ。それが見る前の勝手な想像だったのだが、見てみたら、思っていたよりはずっとよくて、原作を頭に思い浮かべながら楽しく見れた。特に犬の漫才師のラジオのDJとの電話のシーンがよかった。ビーチボーイズカリフォルニア・ガールズ(ココで試聴できます。6曲目)の流れる場面で、僕が着てるラジオ局Tシャツのデザインは、小説に載ってたやつの方がシンプルでよくないか?とも思った。3人目の女の子(室井滋)との日々の断片なんかも、雰囲気があって、いい。
しかし、やはりというかなんというか、原作の方がずっとよい。映画は俳優がそれぞれの役を演じるわけで、それゆえに当然にそこに現実感が生じてしまって、重々しくなるというか、生々しくなるというか、そういうのがよくないと思う。原作のよさである(と僕は思っている)あの現実感のない感じ、軽さ、がなくなってしまってるのだ。けれどそんな現実の中に生きる俳優が、小説の中の現実感の希薄な、軽い台詞を言うもんだから、そこに違和感を感じてしまった。やはりあの軽さは小説だからこそ出せるものなのかもしれない。
あと、<鼠>の作ったあの映画がね……。うーん。直球過ぎるんじゃないか。ジェイズバーで鼠が僕に話す小説の構想(沈没した船に乗っていた男と女の話)とか、僕はけっこう好きで、あの映像を撮ってラストに持ってきたって悪くないと思うんだけどなあ。
やはり、あることを表現するに最もふさわしい媒体というものがあって、素晴らしいものはその媒体の選択も適切に行われているもんだ、ということを感じた映画だった。でも、映画は映画で雰囲気はよくて悪くないし、4本指の女の子(真行寺君枝)は人形のように可愛らしいので、原作を好きな人は試しに見てみるのも悪くないんじゃないだろうか。