しゅっ

基本的にテスト中は問題が解けるにしろ解けないにしろ時間が余る。というのも、出来る場合はいくらでもさらさらと書けるからすぐ終わるのであり、解けないときにはそもそも知識が大量に不足していることが多いため問題を見た瞬間にその意味すら分からず終わる。どちらも大した違いはない。強いて違いを挙げるとすれば、単位が来るか来ないかという些細な違いくらいである。今日の一発目のテストは語句穴埋問題という大学のテストとは思えんようなテストだったので、分かろうと分かるまいとスラスラと進むため開始後10分もかからずに終了してしまった。しかしこの大学では試験開始後30分経過しないと退出できない。まったく、こんなテスト教場でやれよ、などと思いながらその後無想で落書きをしていたのだが、その何気なく書いた落書きに意識を集中させたときに私はハッとしてしまった。意識せずに書いたそれは、ナイキのあの、しゅっ、としたマークだったのである。ガガーン。私はいまだ小学生や中学生のときなんかについマジックで上履きに書いてしまうナイキの、しゅっ、としたあのマークの呪縛から解き放たれていないというのか。あの、しゅっ、の計算されつくしたかのような美しき曲線美にいまだ束縛されているのか。あの頃のニキビいっぱいの私から何にも進歩していないというのか。その通りなのだろう。およよよよ。と、人類の進歩というものに真っ向から否定的な態度をとり続けるここ数年の己の姿勢に、ある種の感銘に似つかないものを感じてうなだれていたのだが、そんなときさらにあることに気づきハッとした。「これ問題と解答用紙一体型じゃないか」ガガガガーン。ペンで書いてなかったのが唯一の救い。解答にはペン以外使っちゃいけないのにもかかわらずシャーペンを出しているとこういうときに役に立つ。急いで消したものの、しゅっ、の痕跡が残ってるような気がしてならない。けれどどうしようもないのでそのまま提出した。ああ恥ずかし。せめてアディダスのマークだったらよかったのに。なんて。
その帰り道、駅で。女子高生の持つ手提げバッグに大きく、しかもあまり上手くない文字で「ALBAROSA」と書かれているのを目撃し、たいへん微笑ましい気分になり、酒を買って一人、乾杯した。やっぱり、そうじゃなくては。ね。