塩の街 有川弘

ISBN:4840226016
久しぶりの電撃文庫。第10回電撃小説大賞作。大学の図書館へ行く際、往復の電車内で読む。電撃文庫は行き帰りの電車の中で読み終えるのにちょうどいい長さなのが素晴らしい。
突如襲った「塩害」という災害によって滅びようとしている世界。そしてそんな荒廃し、消えようとしていく世界に暮らす男と少女のラブストーリー。まあ、そんな感じの話です。似たような話はパッと思いつくだけでも秋山瑞人イリヤの空、UFOの夏」(電撃文庫)や高橋しん最終兵器彼女」(BIG COMICS)なんかがあるんですが、それらと違う本作の一風変わった点は、体が塩になっていくという設定。これは面白いなぁと思いました。ただ、読み終えて思ったのは、全体的に書き急いでいる気がするということ。前半部の2人の話よりも自衛隊に行ってからの話の方が長い。これだと前半で主人公2人に感情移入する暇もなく物語が急展開を迎え、そしてそのまま終わってしまうのでラストの感動が薄れてしまうのではないでしょうか。僕は「イリヤ」とかかなり好きなんですが、あの物語のラストがなぜいいのかというと(ラストシーンの是非を問うているわけではないです)、前半部の馬鹿騒ぎがあるからだと思うんですよね。原チャリを盗んだデート、旭日祭、晶穂と伊里野の大食いバトル……etc。そういう楽しかったエピソードがあるからこそ、それが終わってしまうラストで心を動かされるのだと。上遠野浩平ブギーポップ・イン・ザ・ミラー『パンドラ』」も、それと同じような理由で好きな作品の一つだったりします。
上記のような理由から、本作も前半部の2人の描写をもう少し増やしてくれればもっと良くなったのではないかなぁ、と思いました。惜しい作品。でもこの人の描く世界観や雰囲気は決して嫌いなものではないので、今後に期待したいです。
滅び行く世界の話といえば高校時代サイドリーダーで読まされた「On the Beach」もそんな話だったなぁ。あれはつまらないサイドリーダーの中では唯一面白かったような気がする。ラストとか本当泣けます。翻訳も出てるんで、オススメです。