新たな世界
やばいやばい。何だなんだなんなんだこれは。僕は一体どうしてこんな異世界で椅子に座って呑気に紅茶なんて飲んでいるんだ……?
サークル繋がりで知り合った友人が京都から遊びに来た。東京見物をしたい、とのことだったのでサークルの友人3人と一緒に出かけることに。だがしかし、自分を含む我々4人はヲタクであるために山手線の内側にある大学に二年も通っているにもかかわらず、東京の地理に全くもって疎い。「六本木?渋谷?お台場?くだらん、くたばれ!」みたいな、まさにそんなノリ。そして詳しいのは秋葉原だけだという……。ああ、なんか自分で言ってても哀しくなってきた。そういうわけなので、ああ困った案内とか出来ねえよどうしよう、と全員で足りない頭をつき合わせて散々考えた挙句、仕方ないからとりあえず行ってみようという結論に達し、まず六本木ヒルズに行ってみることにした。Plan-Do-Seeという言葉があるけど、Planの段階で考えすぎてつまずきDoに移ることができない、ということが自分たちは多いような気がするので、まずDoしてみることは大切だと思う。うん。(自己肯定
そんなことを考えたり考えなかったりしながら地下鉄に乗り、六本木ヒルズへ向かう。麻布十番駅に到着。下車。麻布なんて駅から既に場違いなんじゃないか、とガクブルしていたが、そこまででもない。以前サントリー美術館に行くために降りた赤坂見附は明らかな空気の違いを感じたけど、今日はそうでもない。あれ、もしかすると僕もとうとうブルジョアになったということか?(違
だが、道路を走っている車を見ると、ここが明らかに高所得者層の街であるということが分かってくる。車ヲタの友人が「おいおいここは何でこんなに高級車が走ってんだよ?マジで」と言い出す。僕は車なんてマーチでいいじゃん小さいしかわいいし、という程度のレベルの人間なのでイマイチ分からないのだが、そいつに言わせると1000万オーヴァーの車がガンガン走っているらしい。そりゃ凄え。流石六本木。
六本木ヒルズに到着。適当に散策する。回転ドアの事故の起きたビルも見てきた。ここにはライブドアの堀江社長や楽天の三木谷社長もいるのか、やっぱ凄いなあ、などという率直な感想が思わず漏れる。変な蜘蛛みたいなやつのところで全員で写真を撮ってみたり、東京タワーを背景に写真を撮ってみたりする。まるでディズニーランドのアトラクションのような六本木ヒルズという街に圧倒されっぱなしだったけど、それなりに面白かった。
今度は東京タワーに行った。東京タワーは小さいときに1度行ったことがあるので、それほど目新しくはなかったけど、上ってみたらやっぱり高かった。新宿のDoCoMoビルや都庁も見えたりして、京都から来た友人は感動していた。自分の大学を探してみたけど、おそらくビルの陰に隠れているのだろうが、見つけることはできなかった。残念。
その後地下鉄を使って秋葉原へ。きた。今まではアウェーだったけど、ようやくホームに帰ってきた。六本木あたりの空気によって、まるでドラクエの毒の沼地に迷い込んだ戦士のようになっていた友人の元気も戻ってきた。そしてその元気になった友人がシェルパとなり、一路とある場所へと向かう。それはこの魔都秋葉原において萌えのエッセンスを抽出することによって生まれた幻想世界。アナザーワールド。そう、それはメイド喫茶。僕は自慢じゃないがメイド喫茶には行ったことがない。初メイド喫茶だ。
既に5、6回はメイド喫茶に行っているという友人にまず連れられてきた場所はガチャポン会館のビルにあるCURE MAID。ここは彼曰く「正統派メイド喫茶」だそうだ。“正統派”ってw 狭苦しいエレベータに5人で乗って上へ。なぜか軽く緊張している。扉が開いた。するとそこには確かに紺のメイド服を着た方々が忙しなく働いているではありませんか!おお、これがメイド喫茶かっ!早速なかに入ろうとする……、が、なんと只今満席とのこと。えっ、メイド喫茶ってそんなに人気なんですか?マジかよ。ということで我々は失意に包まれながらエレベータへと引き返した。目の前で無言のまま閉まっていくエレベータの扉。非情である。
だが、既に百戦錬磨(増えてる)の友人にとってはこんなことは日常茶飯事らしい。「あそこは割と混んでいるんだよ。はっは」などと言いながら彼は別の店に案内してくれる。次に彼が連れてきてくれた店はcos-cha。入り口にはなにやら黒板ちっくのボードにすごいよ!!マサルさんに登場するメソのような奇妙なキャラクターが踊っている(写真参照)。さらにボードには「本日から、Sexyメイドweek」との文字が。
Sexyメイドweek!何だよそれ!やべえマジで面白すぎる。一気に蝶期待度アップ。「いつもよりちょっぴりセクスィーなメイドがドキドキさせちゃいます」そりゃセクスィーなメイドにドキドキさせられるしかないだろう。ということで薄暗い階段を上って2階へ。そしてゆっくりと白い
瞬間、世界が変わる。水晶体を通して眼球に入ってくる光はすぐに電気信号に変わり視神経を通じてその情報を必死で脳へと伝達していく。僕の眼も確かにその作業を行っているはずだった。だが、まるでホワイトアウトにでもあったのかのように目の前は真っ白。そして時折ノイズが入る。……追いついていなかった。あまりにも不可解なその現象は、僕の脳の解析能力を優に超えてしまっていたのである。―――なんて、こと。
人間という生命体に先天的に備えられている自己防衛機能が働く。僕の足は気がつくと一歩も前に進まなくなっていた。ビリビリと空気が震える感覚を覚える。カタカタと歯の鳴る音が聞こえた。それは自分の口から発せられたものだった。僕は震えている。僕は震えているのか?何故?なぜ?
それが圧倒的に絶望的な力の差を見せつけられた相手と対峙する者の感覚のせいだと理解するのに時間がかかった。圧倒的に力の差のある相手と対峙したときの対処の方法は大きく分けて2つ。逃げるか、散るか。それだけ。僕は考える、いや、考えるまでもない。逃げて一体何になる?この世界に未練などあるのか?……まさか。じゃあ散れよ、「飛べ」よ。飛んで見せろよ。お前にそれが出来るのか?どうせまた口だけなんだろう?うるさい!飛んでやる飛んでやるさ僕は僕を殺して新しい僕を手に入れてやるさ。僕はやれる。間違いなくやれるんだ。来いっ!!
ようやく情報解析を終えた脳からの伝達によって、まるでファックスのように世界が一行一行ゆっくりと更新されていく……
「いらっしゃいませ〜♪」
嬌声が響く。そして僕は全てを理解する。ああ、僕はついにニルヴァーナに達したのだ、と。5人は1人のセクシーなメイドのお姉さん、いや、エンジェル(cos-chaホームページ参照)に座席へと案内された。実は以前テレビでこの店が紹介されているのを見たことがあり、そのときは学校の机のようなテーブルが使われていたため、それに結構期待していたのだが、残念ながらその席はすでに満席であり、奥の普通の席へと通された。そのテーブルを見て、サイゼリヤ?と思わず錯覚しそうになるが言うまでもなくそれは錯覚である。だって目の前にはほら、エンジェルの微笑が。
エンジェルたちは天使のような(っつーか天使だし)無垢な笑顔で、今日も背の低いヲタクどもの間をくぐり抜けていく。汚れを知らない心身を包むのは、色とりどりのメイド服(ミニスカート仕様)。ニーソックスとミニスカートの間に生じる絶対領域は乱さないように、ふりふりスカートは翻らせないように、ゆっくり歩くのがここでのたしなみ。もちろん、こんな愛くるしいエンジェルたちに萌えないなどといった、はしたないヲタクなど存在していようはずもない。
だから僕はティーカップをソーサーの上におく手がやたら震えていてカチャカチャと音を立てていたことにもミニスカートからこぼれるパンツ(見せパン)からお尻が微かにこぼれていたことにも注いでもらった紅茶がめちゃくちゃ薄かったことにも萌えて萌えて仕方がない。全てはドジっ子を演じるための演出なのだ。きっと厨房では「はわわはわわ」とか言って駆け回っているのだ。ついコップとか割っちゃったりして。
ふと横に座っている例の百戦錬磨の彼を見ると、彼も僕の方を向き、にやりと笑った。そして彼は財布から1枚のカードを取り出した。それはなんとこのcos-chaの上の階にあるLittle BSDのポイントカード。しかも相当ポイントが溜まっている。こいつ……本物だ。僕は普段からヲタクなそいつの更なる深みを知り、恐れ入った。
cos-chaには90分という時間制限があるのだけれど、エンジェルたちの素晴らしさを十二分に堪能した僕たちは60分ほどで店をでた。「ありがとうございまーす♪」というエンジェルの声に送られながら。
5人は感動に満たされていた。だが、何故か西から吹く風が無性に冷たく感じられた。僕たちはお互いの肩を叩いて頷きあうと、もうすっかり暗くなってしまった秋葉原の街の方々へと静かに散らばっていった……
(END)
と、いうわけでメイド喫茶行って来ました。なかなか面白かったです。紅茶はマジで薄くてちょっと泣きそうでした。友人のコーヒーは激濃だったそうなので、もしかしたら混ぜればよかったのかもしれません。何人かのエンジェルを見たんですが、一人だけ本当に軽くお尻が見えていて、ここはどこの安下着パブなんだ、とか錯覚しそうになりました。微妙にエロい。でも、メイド喫茶に行くのは別にエロを求めているのではなく、メイドという幻想を求めているわけだから、Sexyメイドweekとかやって無駄にエロさを増すのはどうなのかなあと思いました。僕は。
よし、今度は正統派メイド喫茶に行ってみよう!(ぇ