成長する恐怖感

西塔タソが以前「キングオブチキンハートは俺のもんだ!」と声高に叫んでいらっしゃいましたが、僕もチキンハート東洋太平洋チャンプを経てキングオブチキンハートを虎視眈々と狙っているので油断はしないで下さい(にやり
まあ何が言いたいのかというと、要するに僕は超小心者だよ、ということなんですが、そんな超小心者が今日ついに普免の卒業検定に行くことになりました。行く前から既に腹が若干痛いような気がします。腸が過敏になりつつあるのを感じます。やばい、緊張している。
「普免の卒検なんて実技だけなんだから落ちるわけねーじゃん何で緊張すんだよお前馬鹿だろ?」とかいう声が聞こえてきそうですが、っていうか教習所のロビーに座っていると周りのややヤンキーっぽい高校生からそんな声が実際に聞こえてくるんですが、そういう声が僕の緊張にますます拍車をかけていく。服の下の体が汗ばんでいくのを感じる。
「ああ落ちたらどうしよう落ちたらどうしよう落ちたら……」という声が壊れたラジカセのようにひたすらに何度も頭の中で繰り返される。落ちたってまたもう一回受ければいいじゃんという意見は、もちろんその通りだと思うし理解はしているけれど、それでもこのネガティブシンキングは止まらない。
おそらく、僕は「落ちる」とか「失敗する」というようなことに慣れていないため、そういうものに対する耐性がついていないのだと思う。それは今までが全て上手くいっていた、ということではなくて、「失敗しそうなことは初めからやらない」という人生に対する逃げ腰の姿勢の結果。
そういう姿勢ゆえ、自分の失敗したときの記憶というのは本来以上に肥大化し凶悪化し僕をより一層苦しめる。恐怖を与える。大学受験の失敗なんかいい例だ。落ちた瞬間は大してショックも受けていなかったはずなのに、今になってそれが僕を押しつぶそうとする。僕は過去の自分をぶん殴ってしまいたい衝動に駆られる。そして僕は過去の自分に向かってこう言う。てめえがあの時あの瞬間頑張ってさえいれば今俺はこんなところにこんな場所にはいねえんだ、と。まるで過去の自分が他人であるかのように。今の自分を核シェルターのような絶対的に安全な場所に置きながら。
舞城王太郎熊の場所」の中で、一度熊から逃げ、だが再び熊と対峙してその熊を倒した父親がこんなことを言っている。

恐怖を消し去るには、その源の場所に、すぐに戻らなければならない。

僕はもう時を逸してしまっている。僕はもう恐怖を拭い去ることは出来ないのだろうか。

閑話休題

自分の検定の番が回ってきた。指導教官に受験番号と氏名を告げ、出発準備をする。普段は楽に走れる道路がいつになく歪んで見える。車も自転車も歩行者もみながずぶずぶと地面に沈んでいくように見える。いや、そんなはずはない。道路が歪むなんてことあるわけないのだ。タコマ橋のようなことは普通の世界では起こってはいけないのだ。僕は自らの幻想の作り出した道路を払拭する。僕の眼前に再びクリアな世界が戻ってくる。――よし、いける。僕は一息つき、ゆっくりと車を発進させた。
全ては上手くいっていた。何の問題もないはずだった。最後に自転車が脇から突然飛び出そうとしてくるまでは。
キッ、と自転車のブレーキの音。僕の車はそのまま通過。間一髪というほどでもないが、結構きわどい感じで避けることは出来た。しかし「終わった……」と思った。一発終了だ。左隣に座っている教官を見る。検定表を持つ手は動いていない。もしかするとこれは減点なしということなのか、それとも一発終了だから書く必要がないということなのか?いやさっきまでは微妙に何かを記入していた、つまりそれがないということはもう……。駐車を終え、教官からコメントを言われる。でもそのコメントは頭に入ってはこない。その後教習所に戻り、縦列駐車をやっているときも僕は上の空だった。適当に縦列を終え、合格発表を待った。
合格発表が始まった。次々に番号が呼ばれていく。ほとんど誰も落ちていない。僕の動悸は今まさにピークに達しようとしている。僕の前の人間の受験番号が呼ばれた。次だ次だ次だ次だ。あああ。
教官が僕の受験番号を読み上げた。
……まさか。やった!合格だ!きたっ!


卒検無事合格しました。今になって冷静に考えてみると、あの飛び出し未遂は自転車だから軽車両として扱われるし僕は優先車道を走っていたのだから減点はないのだろうと思います。それにしても際どかった。寿命が5日縮まったような気がします。さっさと免許センターに行って免許とって色んなところへ行こう。