メイド喫茶を楽しむには

久しぶりにサークルに行き作業を終えた後、その場のノリで「そうだ、メイド喫茶行こう!」ということになり3人で秋葉原へ。やはりどうせ行くのなら新しい店を開拓するべきだ、と無駄にフロンティアスピリッツを発揮して今まで行ったことのない店に入ってみた。入店するや、「おかえりなさいませ、ご主人様」などと言われ、驚く。「おかえりなさいませ、ご主人様」というのはステレオタイプなメイド喫茶用語なのだろうと思われるが、この類のことをメイド喫茶で言われたのは初めてだったので、ちょっと感動する。その他は別に普通だった。ああ、ただ内装が簡素すぎるのがやや目についた。内装も家具もシンプル過ぎる。そして奥には何故か何もないガランとしたスペースが広がっており、シンプルな内装と相まって何とも言えぬ雰囲気を醸し出している(店内を広々と見せる工夫?)。特にコンセプトなども明確に定めないままとりあえず流行ってるっぽいからメイド喫茶作ってみた、という感じなんだろうな、と思った。まあ、そんなことを言っている僕とて「とりあえずノリでメイド喫茶行ってみた」という人間なのだから、さほど店側と大差はない。
しかしメイド喫茶の楽しみ方というのは難しい。僕自身、まだ両手を使って数えられる程度の回数しかメイド喫茶に行ったことがないので大したことが言えるわけではないが、メイド喫茶に行くと、こう何というか、居心地の悪さというか、きまずさというか、そういうものを未だに感じてしまうのである。友人に言わせれば「それがいいんじゃないか!」ということらしい。その意見は確かにわからなくもないけれど、どうもなあ……、という違和感が残る。何故だろう。「喫茶店」というのはお茶を飲みながら休憩する場所だ、という固定観念が頭の中にあるせいかもしれない。しかし今問題にしているのは「メイド喫茶」なのだから、ただの喫茶店として考えてはいけない。あくまでも「メイド喫茶」として考えるべきである。そこでメイド喫茶と他の喫茶店とを峻別せしめているのはやはり「メイド」の存在であるからメイドに注目すべきである、と考えるのは、自然な流れだろう。だが、メイドに注目すべきであるからといって、店内でひたすらに店員のメイドさんを凝視し続ける行為は言うまでもなくNGだ。そうかといって店内を歩き回る店員のメイドさんをたまにチラっと見るというのも、そんなことをやっている自分自身が無性に恥ずかしくなってしまうだろうと思われるのでダメである。つまり、メイドに注目すべきであるからといって店員のメイドさんに注目してはいけないのだ。
ではどうすればいいのか。店員のメイドさんに注目しないでメイド喫茶を楽しむことなどということが可能なのか。結論から先に言えば、もちろん可能である。そもそも、メイド喫茶において注目すべきはあくまでも「メイド」であって、「店員のメイドさん」ではない。だとすると「メイド」とは何か。簡単である。それは役割だ。goo辞書によれば女中、お手伝いさん、それがメイド(メード)である。お手伝いさんというのは基本的には影に徹する職業・役割であり、普段その存在自体に注目するような種類のものではない。それゆえ、「メイド」に注目したメイド喫茶を楽しみ方というのは、何か特別なことをするというわけではなく、ただ普通の喫茶店に入るようにメイド喫茶に入り、普通に出てくる、ということになる。それこそがメイド喫茶というロールプレイ・ゲームの最高の楽しみ方なのである。しかし、ここで「ただ普通にしているだけならメイドに注目していることにもならないし、それならば初めから普通の喫茶店に行けばいいではないか」という反論があるかもしれない。だが、その考えは明らかに間違っている。まず、「メイドに注目していない」という点であるが、注目という言葉は何も「目で見る」ということだけを意味するのではない。関心をよせるということでもあるのだ。メイドさんとのロールプレイ・ゲームに集中するということは、メイドにこれ以上もないくらいに関心をよせている・注目していると言えるのではないだろうか。さらに、メイド喫茶でなくてはならない決定的に重要な要素は、メイド喫茶にはメイド服を着たメイドさんがいる、ということである。「『メイド服を着たメイドさんのいる状況で』何気なくコーヒーを口へと運び、何事もなかったかのように店を出て行く」というのが重要なのである。メイド服を着たメイドさんがいないのならばそれはロールプレイ・ゲームでも何でもないのだ。そこには何の意味も含まれてはいないのである。
僕がこのロールプレイ・ゲームに未だ気恥ずかしさを感じているのは、言ってみれば高校生が文化祭のクラス出し物としてやる演劇を恥ずかしがって上手く出来ないのと同じである。真剣さと練習が足りないのだ。つまり、僕はメイド喫茶を楽しむ上でまだまだ未熟だということだ。このロールプレイ・ゲームを楽しむにはもっと頑張ってメイド喫茶に通わなければいけない。何事も、日々精進、なのである。

ああ、ずいぶんと長い言い訳だった。