線引き

僕は自転車旅サークルに所属しているのであるが、自転車で旅に行く場合、まずツーリングマップルというバイク用の道路地図を購入し、大まかなコースを設計する。その上で、山の中など迷いそうな箇所、迷ったら危険な箇所においてはさらに詳細な5万分の1地形図を購入し、ツーリングマップルには載っていないような細かい道にマーカーで線を引くという作業を行っている。何故このようなことをするかといえば、楽しいサイクリングをするためには、危険というものを徹底的に出来る限り排除することが必要だからである。特にダートに行くときや、シングルトラックに行くときなどはより注意しなければいけない。山奥でちょっと道に迷うだけで、それは死にもつながるからである。笑い事じゃなくて本当に、だ。僕がこの3年間楽しくサイクリングをすることが出来たのも、この線引きという行為がそれを支えてくれていたからだ、と言っても過言ではない。
そういえば明後日の30日、久しぶりに峠に行く。名を有明峠という。この峠、新宿からわずか30分ほどで行けるにもかかわらず、相当な難所らしい。今まで自転車に乗って幾つもの峠を上ってきたが、そのような峠の存在など全く知らなかった。いわゆる、灯台下暗し、というやつである。しかしこの峠調べれば調べるほど登頂が難しそうに思えてくる。坂ではなくもはや、壁、と呼ばれるレベルの箇所が幾つもあり、それらに挑んだ者たちの多くはそれに敗れ、悲しみの涙を流し、方々の島々へと帰っていくらしい。けれども島に帰れる人々はまだマシである。何故ならば島へ帰る途中で雪崩の激流に巻き込まれ、そのまま消息を絶ってしまう者も多いからだ。以前、世界最高峰のエベレストに登頂した若い方の記事を読んだのだが、エベレストの登頂付近には登頂出来なかった者、そして登頂には成功したが降りれなかった者、そういった人々の遺体がゴロゴロと無残に転がっているそうだ。このエベレストほどではないにしろ、話を聞いている感じではこの有明峠という峠もそれくらいの覚悟を持って望んだほうがよさそうである。僕とてまだこの命を散らしたくはない。そこで今日、この有明峠のためのツーリングマップルを買ってきた。この峠のことしか載っていない特別仕様で、2200円もした。関東甲信越、北海道などといった普通のツーリングマップルに比べ、大判で、紙質も異なっている。流石は特別仕様である。さて、僕はこれからこの特別仕様ツーリングマップルを念入りに読み込み、線引きをしなければならない。一緒に行く友人たちも初登頂であり、さらには道案内のためのシェルパもいないのが少々不安ではあるが、サイクリングの3年間で学んできた線引き技術を十分に生かし、必ず生きて帰ってこようと思う。最後には笑えるように。