イッツ・オンリー・トーク 絲山秋子

イッツ・オンリー・トーク

イッツ・オンリー・トーク

30代なかばの女性である「私」が主人公で、その主人公の淡々とした、しかし普通とはちょっと変わった人々と交流する日常が描かれている作品。この本には表題作の他に、「第七障害」という作品も収録されている。が、今回は「第七障害」の方の感想は省略。まあ省略してしまうくらいもう一方の「イッツ・オンリー・トーク」がよかった。
とにかく色々な登場人物が登場するが、それらの登場人物に対する「私」の距離感が絶妙で、いい。近すぎず、遠すぎず。太陽の周りを回っている9つの惑星が、あるとき一列に並び、そして次の瞬間には離れていく。この作品を読んで、そんな場面を想像した。「私」は、人と人とは決して完全にわかりあえない、という諦めにも似た確信を持っていたのではないかと思う。人と人との間に存在する宇宙空間。決して越えられないもの。それがあの距離感に表れていたのではないだろうか。「私」のもとに人々が集まってきたかと思うと、みんな去っていってしまう。「私」はそのことについてよくわかっている。十分にわかっているんだけど、でも、それでも悲しくなる。
「雨だった。」で始まる最後の一節。この物語をしめくくる実に素晴らしいラストだと思う。
とても面白い作品だった。おすすめ。