メセナ

よく行ってるカラオケは夜7時以降が夜時間になり料金があがるので、何とかその前に滑り込みで入ってしまいたい、というみみっちい精神を満たすため、楽器の練習をするときは会社に楽器を持って行ってそのままカラオケに直行している。今日も練習をしようと思ってたので楽器を持って会社に行ったら、たまたまエレベータで乗り合わせたおじさんから「それ何?」と聞かれた。「あ、楽器です」「ガッキ?」「ええ、トランペット」「ああ、トランペット。へー。大学はどこなの?」「え?」「いや、どこの大学でやってたの?」「ああ、大学のときはやってなかったんですよ。会社入ってから始めたんで」「ああ、そう。それはいいね」そう言ってうなずいていたおじさんは先にエレベータを降りていったのだが、降りる際に、小声で「メセナ、か…」と言い残していった。えっ、と自分が思ったときには既にエレベータのドアは閉まり、上の階へと動き始めていた。エレベータに乗りながら、いや、メセナって、ちょっと意味違くない?あれって確か企業が文化に金を出す、みたいなことだったような…とか考えていたけども、きっと「楽器か…。そういやコンプライアンスだとかエコだとかって言葉が流行る前はメセナってのが流行ってたっけかな。わかりもしやしない文化や芸術に金を出してさ。あの頃はバブルだったし、俺も景気よかったよな…。それに比べて今はちっとも景気はよくなんねえし、いったい何なんだろうな。また、あのメセナみたいなことができるような余裕のあるときは来ねえもんかなあ。はぁ……メセナ、か……」というようなことをあのおじさんは考えており、ついそんな思考の最後の部分が口をついて出てしまったということなの、かもしれない。
家に帰ると注文していた電子メトロノームが届いていた。やった。これで正確無比なリズムに合わせて練習ができるぜ!
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