ひげ
僕はわりによくひげが伸びるほうで、大学時代の夏休みなどは最長で1か月半くらい伸ばし続けたことがある。そうするとなんか熊のような感じになってきて、なぜか開放的な気持ちになったものだった。ひげで顔を隠すことで開放的になるというのはなんか逆説的な気もするけど、マスクをすることで外出しやすくなる人がいるというニュース記事を見たことがあるので、まあそんなものなのかもしれない。隠すことによる解放。
そういう意味では、働き始めるとなかなかひげを伸ばし続けることは困難だ。先日散髪に行ったときに、散髪屋のおじさんに働いているとひげが伸ばせないんですよね、って話をしたら、「ウチのお客さんでも若い人で社会人になりたての子がいるんだけど、ひげ生やしたまま会社に行ったら怒られたって言ってて、その言い訳が部長もひげ生やしているんだから別にいいのかと思って、ですって。まったく困ったもんですね」という話をされた。正直なところ、僕はまったく困るどころかむしろその若い青年と同意見だったんだけど、そういうものなのだろうと思って、「まあ、そうですよね」なんて答えていた。いつからひげを生やしていても大丈夫なのか、いまだによくわかってはいないけど。
働きながらひげを伸ばせる唯一の機会が、長期連休である。幸い、今回のGWは6日続けて休みを取ることができたので、その間はただ生えるに任せてひげを伸ばしきりにしていた。僕はすっかり開放的な気持ちになり、六本木のパブに行ってとなりで飲んでる体格のいいアイルランド人に「俺はギネスよりもサッポロのほうが数段うまいと思うんだが、アンタはどう思う?」なんて英語でけんかをふっかけてみた……なんてことはしないけど、ほどよく開放的にお酒を飲んでいた。
しかし、形あるものには必ず終わりがある。長期連休はいままさに終わろうとしていて(いまは2014年5月7日午前6時だ)、開放的なひげは電気シェーバーによって無残に刈り取られてしまった。刈田のような肌をなでながら、僕は洗面台の排水溝に吸い込まれていったひげ達の行く末を思った。