アメリカ法制度の背景を知るのに適当な一冊(コリン・P.A. ジョーンズ『手ごわい頭脳―アメリカン弁護士の思考法』)

日本人のアメリカの訴訟やアメリカの弁護士に対するステレオタイプな印象というと、おおよそ次のような感じだろうか:

  • アメリカの訴訟

・賠償金額が高額になりやすい(懲罰的賠償制度など)
・ちょっとしたことでもすぐ訴訟になってしまいやすい(ファーストフード店のコーヒーが熱すぎてケガをしたという事件)
・一般市民による陪審制がとられているため裁判の予測が立ちにくい

  • アメリカの弁護士

・弁護士人数が日本よりもかなり多い(絶対数、人口に占める割合双方)
・弁護士費用が日本に比べて高額になりやすい
・成功報酬型のフィー体系で、荒稼ぎしている弁護士もいる?

日本にも留学経験があるアメリカ弁護士で、現在は同志社ロースクールの教授をしている著者は、上で挙げたようなことは必ずしも間違いとは言えない(事実、アメリカ国内でもそのように思っている人々がいるそうである)としつつも、ではなぜそうなっているのか、言いかえればそのような制度にすることによりアメリカは何を実現しようとしているのか、ということを具体的な例を挙げながら簡潔に説明してくれる。上記ファーストフード店の事件と懲罰的賠償の関係、陪審制と政府に対する意識、判例法の意義など楽しく学ぶことができ、そして非常に参考になった。最近、米国において、日系自動車部品関連メーカーに対する様々な事件がクローズアップされているが、あれら事件を考える際にも、この本に書かれていることを理解しているのとそうでないのとでは、大きな違いがあるように思う。
あと、個人的にはbatteryの概念を説明する際の一連のケースを用いた説明がとても面白かった。米国のロースクールではあのような授業が展開されているのだとしたら、そりゃ論理的思考力は養われるだろうなと。
何気なく手にとった本だったけれど、とても面白く自分にとって有益な本だった。新書サイズで読みやすい文体なので、アメリカの法制度に興味があるけど何を読めばいいのかよくわからないといった方にぜひおすすめしたい。

手ごわい頭脳―アメリカン弁護士の思考法 (新潮新書)

手ごわい頭脳―アメリカン弁護士の思考法 (新潮新書)