博士の愛した数式 小川洋子
80分間しか記憶を維持できない元数学者である博士と、家政婦である私、そして私の子供である「ルート」の3人が数学を通じて心を交し合っていく物語。話題なので読んでみる。
博士のユーモラスな特技や特徴、ルートへの接し方などによって、本来重くなるであろう話は、オレンジ色の西日の差した夕方のテラスにあるような、静かでやさしい雰囲気で続いていく。でも西日というものが終りゆくものへの憂いといったものを含んでいるように、この話も穏やかな雰囲気の裏に、どうしようもない哀しさを持っている。でも、私とルートが、数学というものをきっかけとして博士を理解し、博士の友達になっていくにつれ、徐々にその物語の根底にある哀しみは消えていく。
物語自体はずっと淡々とした調子だし、これといって大事件のようなものがあるわけでもないので、派手さのある作品ではないけれど、読み終わった後には「読んで良かったな」と思える作品。最近疲れてる、とか思う人は読むといいのではないでしょうか。作品の至る部分で数学の(というか数字の)美しさが際立っていて、こういうのを読むと数学もいいなあとか思います……が、実際は違う!とか言われそうなので、黙っておきます。