ガラス張りの屋根の上の猫
明日からまた学校か。信じられん。夢なら覚めてください。早く。
ネコミミモード。ひぐらしのエンジェルモートと関係があるのかなと思ったら全然違った。夜中にやっている月詠というアニメの歌らしい。この曲は僕には合わないなぁと思った。いや、いわゆる電波ソングが全部嫌いなわけじゃなくて、巫女巫女ナースとかお兄ちゃんどいてそいつ殺せないとか君のために死ねるとかはむしろ好きだったりするんだけど、このネコミミモードとか天罰とかいちごGO!GO!とかは好きになれない。自分でもその「好き」と「嫌い」の境界線がどこに引かれているのかよくわからない。自分のこともわからないようじゃどうしようもない気がする。
突発的マリみてSS。白薔薇ってか佐藤聖。伏字。
白薔薇のつぼみは私のあごを右手でくいっとあげると、まるで品定めをするように、私の顔を舐めまわすかのごとくじろじろと眺め、そして私のあごを持っていた右手を離す。その後何事もなかったかのようにして私の目を見据え、言った。
「私はあなたの顔が好きだわ。あなたの愛らしいこの顔をずっと見ていたいから、私の側にいなさい」
白薔薇のつぼみは有無を言わさぬ目線をこちらに投げかけてくる。私は正直呆気にとられていた。入学以来、今までいくつもの姉妹申し込みを受けてきていたが、こんな台詞を聞いたのは初めてだったからだ。
「……あなたは私の顔を愛したいから、私にあなたの側にいろ、つまり私に姉妹になれと、そういうことですか?」
「ええ、そうよ」
微笑を浮かべながら自信たっぷりに白薔薇のつぼみはそう言い切った。彼女は断られるなんてことは微塵も思っていないのだ。それを聞いた私の口からは思わず含み笑いが漏れる。
「……何が可笑しいのかしら?」
「いえ、それなら、私がこういうことをしたらどうなるのかと思って」
私はスカートのポケットからペン先の出た青いボールペンを取り出すと、それを自分の右頬に少し痛いくらいに当て、それを勢いよく真下へと引いた。鋭い痛みが私の頬を射抜く。
「ちょ……、ちょっとあなた一体何をやっているのっ!」
白薔薇のつぼみは一体何が起こったのかわからないという表情を顔一杯に浮かべながらも、私に手をかけようとする。私はその手を容赦なく払いのける。パシン、という小気味いい音がミルクホールの中に響き渡る。私は、払われた左手を右手で押さえながら呆然と立ち尽くしている白薔薇のつぼみを見やり、言った。
「これで私はあなたの妹にはなれない。だって、あなたの愛すべき私の顔とやらはすでに失われてしまったから」
白薔薇のつぼみは何も言わずに、いや、何も言うことが出来ずに、ただ私の方を見ている。
「愛というのはあなたの言うような『顔が好きだから愛している』というようなものではないだろう? あなたは私の顔を愛しているかもしれないが、それは私を愛しているわけではない。ただ私の顔という私の構成要素を愛しているだけだ。その構成要素を私が失ってしまったら、きっとあなたは愛することを止めるだろう。そんなことは詭弁だ、とあなたは言うかもしれない。では、私が四肢をもがれそして顔をも失った状態となりしかしもしそれでも私が生きていたとしたら、あなたは私を愛せるのか」
頬が徐々に熱を帯び始めている。心臓の鼓動がまるで頬で鳴っているかのように感じる。
「……出来ないだろうね。ある属性を好むことを愛だと錯覚しているような人には。愛について何かしらの説明が可能である時点において、それは愛ではないと証明されているんだよ。そんな錯覚、私はいらない。……それが分かったら、さっさと私の前から消えてもらえないかしら」
白薔薇のつぼみはわずかに私の顔を睨み付けた後、静かにミルクホールを後にした。私は一人、夕暮れのミルクホールの中にいた。そこでは全てが静止していた。
この世界には結局のところ私だけしか存在していないのだ。
そう思わせるのに十分なだけの静寂が、オレンジ色のミルクホールの中には存在していた。だが、そのとき、私の静止した世界が微かに揺らいだ。はっと窓の外を見やると、そこにいたのはゴロンタだった。彼女は天使のような無垢な笑顔を振りまきながら、しっぽを左右に振っている。私は閉め切られた窓を開け、ゴロンタをミルクホールの中に入れると、小さな彼女をギュッと抱きしめ、そして少しだけ泣いた。
色あせたカーテンが風に揺れている。