鳴らない、電話

ニュートラというサイトに適職診断なるものがあるらしい。それはたった50問の問いに答えるだけで自らの適性はおろか適職までも判断してくれるという素晴らしいものでありさらには無料でもあるということなので、そのような素敵なサービスを利用しないわけにはいくまい、と思い、さっそくやってみた。診断結果はコレ。ディーフェンス!ディーフェンス!と、イタリアのカテナチオにも匹敵するであろう高いディフェンス力に喜ぶ。もしかしたらこの診断結果を聞きつけた陵南の田岡先生から「卒業してしまった池上の穴を埋められるのは高いディフェンス力を持った君しかいない。是非陵南に来てくれないか?」というスカウトがくるかもしれないが、残念なことに僕はバスケをやる気がない。どうやって田岡先生の勧誘を断ればいいだろう。彼はしつこそうだしなあ。適当に断ったらストーカー化するかもしれない。怖えええ。ミッチーやリョーちんのように「安西先生がいるから湘北に行きます」と嘘でもついて断ればいいだろうか。でもそれだと嘘をついているということで何となく良心が咎めるし、はてさて、どうするか……。などと田岡先生の勧誘を断るための言い訳をあれこれと思案していたが、幸運なことに田岡先生からのスカウトの電話はこなかった。ホッとした。
しかし何故田岡先生からスカウトの電話がこなかったのだろうか。僕のこの診断結果を知らないのだろうか?……いや、それはないだろう。何故なら陵南には彦一という優秀な諜報員がいるからだ。彼がこのような情報を見逃すはずがない。となると、この診断結果を知っているにもかかわらず、田岡先生は僕にスカウトの電話をかけなかったということになる。つまり、問題はこの診断結果にあるわけだ。ということで、もう一度診断結果を見てみることにする。すると僕の問題点は容易に見えてきた。さっきまではディフェンス力の高さばかりに目がいってしまい他の項目を見ていなかったが、オフェンス力を見てみるとオフェンス力何とゼロであった!何ともまあ!いくらディフェンスがよいとはいってもオフェンスがザルではバスケは出来ない。だから田岡先生は僕にスカウトの電話をかけてこなかったのか。それなら納得である。……が、しかし。僕はそこである1人の選手のことを思い出した。陵南には僕と全く正反対の選手がいる。そう、福田だ。彼と僕がフュージョンすれば海南の牧も顔負けの一流選手が誕生するのではないだろうか……?おそらく情報を収集していた彦一も、この考えには気づいているだろう。と、なるともしかしたら彦一から僕に「福さんとフュージョンしてくれまへんか?ショーホクに勝つにはもう福さんとアンさんがフュージョンするしか他に道がないんや!お願いや!」という電話がかかってくるかもしれない。だが、それは無理な相談である。なぜなら福田は僕の好みではないからだ。しかしそんな直球の返答をしてしまい、彦一がそれを万が一福田に伝えてしまったりでもしたら、繊細な福田はさぞかし傷つくことだろう。そんな酷いこと、僕には出来ない。だけどフュージョンもしたくはない。はてさて、どうやって断ろうか……。と、福田の気持ちを傷つけないで依頼を断るうまい言い訳を考えていたが、幸運なことに電話は鳴らなかった。危ないところであった。

「好きだ」と言われて相手から積極的に出られると、かえって警戒してしまい、せっかくのチャンスも逃がしていませんか。ほんとうは気軽に合コンにも参加したいのに、お酒を飲んで酔っぱらって、変な展開になり、ストーカーされたらどうしようなどと、先へ先へと心配してしまうので、行動半径も狭くなりがちです。
ニュートラ診断結果より引用)

田岡先生や彦一からの「好きだ」というオファーがなくても先へ先へと心配してしまう僕は診断結果を上回ってしまったかもしれない。You still have lots more to work on!!