人間到処有青山

本日のテストは、授業に出席もしてるのでもともと心配していなかったが、案の定余裕だった。狭い教室の中、院生と思しき人物によってテスト問題が配られ、彼女の「始めてください」という号令とともにそれをめくるやいなや僕は勢いよくペンを走らせたが、それと同時に右斜め後ろからカランという音も聞こえた。テスト中なので後ろを見やることはできないが確かそこにはヒゲ面の男(多分同学年だろう)が座っていたはずだ。きっと彼は問題を見た瞬間に「ああこりゃ無理だ」と悟り、「単位を落とす」という考えたくもない現実を目の当たりにして落ち着きを失いつい手が振るえ、ペンを机の上に落としてしまったのだろう。ときおり手で頭をかくような音も聞こえてくる。可哀そうに。しかし僕が彼にしてやれることなど何もないのだ。僕は暗記してきた事項をさらさらっとA3の解答用紙に書き記すと、それを提出し、外へ出た。硝子越しの向こうに雨がざあざあと降っていた。僕は雨と哀れな彼の心境とを重ね合わせながら、しかしあれはあと数日後の己の姿かもしれないのだ、とそんなことを思いつつ階段を下った。雨はその勢いを徐々に増し続けていた。彼と同じく僕もまだ覚悟が足りない。既に3年も経っているというのに。
とはいえテストが出来たからといっても嬉しくないのはなぜなのか。何なのだろうこの空虚。