エナメルを塗った魂の比重 佐藤友哉

エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室 (講談社ノベルス)
鏡家サーガの二作目。フリッカー式は特に面白いというわけでもなかったので、期待せずに読む。
期待せずに読む、とか言っててごめんなさい。正直、かなり面白かったです。
どこにでもあるような一見するとあたりまえのような世界にあたりまえのような彼らは住んでいる。彼らはみな自らの魂にエナメルを塗って塗って塗って塗りたくって生きている。そんな世界に訪れる、完膚なきまでに狂った事態の連続。それによって彼らは虚構であるあたりまえの世界から狂いに狂った現実へと直面させられることで、それを知り、その存在を認識する。その過程において彼らの魂に塗られたエナメルが徐々に剥がされていき、本物の魂が現れる。
……でも、本物の魂って何だよ? 本物の自分って何だよ?
そんな思考が頭をよぎる瞬間、剥がれかかっていたエナメルの傷は塞がり、より一層厚く魂にエナメルが塗りたくられる。そのとき狂った世界はあたりまえの世界へと成り下がり、非常識は常識となる。そして「あたりまえ」の日常が訪れる。
至る所に出てくるアニメや漫画を用いた比喩や、くだけすぎた文章などはやや不快な感じがするし、度の過ぎたいじめシーンなどは決して気持ちのいいものではないけれど、それ以上に読み終えたあとに残るものがある。やばい、やばすぎる位に不快で快感。ああもうユヤタン信者になってしまいそうな勢いだ、っていうかもう既になっているかも。
先日、かなり加筆修正された新装版「エナメル」が出たそうなので、とりあえず今度買ってきます。今まで放置して読んでいなかったファウスト読みきりの方も読んでみよう。